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2009年2月23日 (月)

いのちなき砂のかなしさよ その3

     

     いのちなき砂のかなしさよ

     さらさらと

     握れば指のあひだより落つ

この歌は読者の人生経験や現在おかれている立場に応じて、特にいろいろな読まれ方がされています。

1949年湯川秀樹博士は日本最初のノーベル賞を受賞しました(物理学賞)。博士の素粒子研究における盟友に坂田昌一博士がいますが、その坂田さんのお弟子さんが最近ノーベル物理学賞を受賞した小林誠・益川敏英両氏です。

さて湯川博士は啄木の大のファンでした。『天才の世界』(正・続・続々)という3冊の本で弘法大師、ニュートン、アインシュタインといったたくさんの大天才を論じますが、2番目にもってきて論じたのが石川啄木でした。

『一握の砂』は551首全部が好きで全部がうまいといいます。その中で一番好きなのが掲出歌だといい、つぎのような読み方を披露します。

「いのちなき砂のかなしさよ、さらさらと、握れば指のあひだより落つ」という感じが、ひじょうに実感に近いわけやね。とくに物理学のような学問をやっておりまして、そういう自然法則とか、素粒子とは何であるかというようなことを、探求しておりますと、そういうものはつかもうと思ってもなかなかつかめぬ。握ったつもりでおったのが、指の間からさらさらと落ちていく。これは何度でも経験することですね。そういういろいろのことが実にみごとに集約されて、一つの歌に表現されているという意味合いから、わたしはこの歌がとくに好きですね。

なんと深い美しい独創的な読み方でしょう。

埼玉県に住む知人からもらった今年の年賀状にこんなことが書かれていて胸をうたれました。派遣の労働者が職を得たと思ったのも束の間、ふたたび職を失う記事を読んで、はからずもこの歌を思い出したと。

1700万非正規労働者の大多数は正規の職、正規の賃金、健康保険・年金・退職金のある生活を望んでいることでしょう。しかしそれが得られない仕組みを小泉純一郎ら自民党政府が作り出し、今の派遣地獄とでもいうべき事態が始まりました。よりよい生活を痛切に望んでいるのに、将来が見えないまま、安定した生活が得られないまま、人生の刻一刻が過ぎて行く。その切なさをこの歌に重ねる人もきっと多いことでしょう。それはこの歌の解説その1で記した<評釈>と全く重なります。

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