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2009年9月10日 (木)

親と子と  その2

     親と子と  その2

初出の4、5句は「食卓に就く気拙かりけり」でしたが、掲出歌の中からは「食卓」のイメージを取り除いた方がいいでしょう。食卓であれ、お茶を飲む時間であれ、浅草に連れて行っているある場面であれ、まわりに家族や大勢の人がいてもいなくても、父と子が二人になったと感じる場面であればいいでしょう。

父と子が仲良く談論風発、などというのはうらやましくなるような光景ですが、一禎・啄木親子の場合は悲劇的です。その因って来たるところは前回見たように啄木自身があざやかに書いています。ただし啄木には自明の事でも読者に分からない事があります。父一禎の事です。

すでに「飄然と家を出でては」や「ふるさとの父の咳する度に斯く」の歌のところで一禎について少し書きました。必要と思う方はもう一度読んでみて下さい。

一禎は数え年5つで実家と地続きの寺・大仙院に預けられたと言われています。満年齢でいえば3つか4つで、裏の家には母親がいるのは分かっているでしょうに、寺に預けられた幼児。その不憫さに涙が出ます。さいわい後に葛原対月という僧に可愛がられ、その妹カツを妻としますが、一禎が知っているのは僧侶としての考え方・生活の仕方だけです。しかも時代に取り残されたような岩手県の寒村にある寺の僧侶でした。

ただし宝徳寺の住職として村で暮らしている限りは、勢力もあり貫禄もある文人僧侶だったようです。しかし寺を追われて東京に出てくれば陸に上がった河童も同然でした。二階二間の一部屋に家族とともに1日暮らしても、することは無く、考えるべきことも無く、外に出ることもできず。おまけに一禎という人は酒と女と肉が好きという生臭の面も色濃く持っていますから、1日の楽しみは当時の日本人には非常な贅沢である晩酌。

このような父と、時代閉塞の現状との対決に進み出ようとする息子とが、日本史上でもっとも急激な変化の時代の集約点である東京で「静かに対ふ」ときの「気まづさ」。

その様子を啄木がこれ以上ないくらい深く鋭く活写しているのをすでに見ました。

ロシアの作家ツルゲーネフに「父と子」という小説があります。父の代の旧弊を容赦なく批判し嘲笑うニヒリストのバザーロフが主人公です。啄木が歌で「親と子」といい、日記で「父と子」という時この小説が念頭にあることは明らかです。

啄木は「気まづさ」の原因を知り尽くしています。しかし歌では原因を読者に考えてもらおうとします。父がこの歌を読んだ時に父を傷つけないように「親と子」とぼかしたのであろうと思われます。

<解釈>父と息子が離れ離れの心をいだいて、ものも言わず向かい合う時、気まずい空気が生ずるのはどうしてだろう。

急激な変化の時代には特に、世代間の考え方に落差が生じます。啄木の時代同様現代もまた変化が急激です。まったく同じ問題が生じています。一見啄木一家の問題のように見えるこの歌は、実は歴史を貫通して普遍的な問題特に現代とは深く共通する問題を孕んだ歌なのです。

啄木短歌のすごさをまたしても実感させられました。

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コメント

はじめまして。先日の「しんぶん赤旗」掲載の先生の「石川啄木とプレカリアート」をみて、はじめてこのブログを見させていただいています。あわせて、朝日文庫版も購入し、言われている「類書にない画期的な版」を実感しました。そこで、「一握の砂の研究」「「国家を撃つ者」も読み始めています。本当に大きく啄木研究を進めるお仕事をされていると思いました。先の2冊をはじめ、このブログも参照しながら勉強させていただきたいと思います。多喜二は、いま学んでいますが、啄木は、全く勉強したことがなく、先生の研究をナビゲーターに学んでいきたいと思います。
初歩的質問があります。平出修との関係で、啄木の関係が「一握の砂の研究」で一層鮮明に解きあかされていますが、少なくともp144にある「大逆事件の裁判関係の情報を極秘で伝えた人、啄木はそれを記録に、詩に、思想形成に摂取した人というパターン」の認識は、戦前は、一般的に、知られていたことですか?戦後になって始めて明らかにされたことですか? それとも、一部の関係者は知っていたことですか?戦前であっても啄木の死後は、明らかにされたことですか?

もう一つは、「国家を撃つ者」P321の記述。「7月3日の日記」にある富田砕花のことですが、「だんだん危険思想を抱くようになっ」て以降の富田の方の社会主義への認識と詩作については、どう進展したのでしょうか?

(私の家の近くに富田砕花の記念館ー旧宅ー芦屋ーがあります)

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