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2010年1月21日 (木)

大いなる水晶の玉を

     

     大いなる水晶の玉を

     ひとつ欲し

     それにむかひて物を思はむ

<ルビ>欲(し)=ほ(し)

作歌は1910年(明43)7月26日夜。初出は東京朝日新聞10年8月4日「手帳の中より」で、掲出歌はその5首のうちの最後の1首。

7月26日夜に作ったのは10首ですが、3首目から9首目まですべてが大逆事件関係の歌です。10首目である掲出歌も同様の作品と見られます。さらに初出の「手帳の中より」でも最初から4首が大逆事件関係の歌ですから、5首目である掲出歌も同様と見なしうるでしょう。

さて、「大いなる水晶の玉」です。日本大百科全書によると、「水晶占い」はヨーロッパ諸国では古来行われている占法1つであると言います。しかし日本では水占いはあったようですが水晶占いは確証がないとのこと。またネット上の「パワーストーンなび」からの情報ですが、「古代から世界各地で瞑想や祈祷、宗教用具に多用されて」ており、「水晶を使った予言や占いは数多く見られ」るとのこと。

ネットで大きな水晶の玉を調べてみました。直径119,5ミリの品で2,572,500円というのがありました。直径62ミリで294,000円の品も。写真を見ているだけで「切に欲し」くなりましたが、これらの値段では「海綿」を買いよせるのと違って手が届きません。こんな大きな最高品質の玉を作れるのはブラジル産の原石を用いるからなのだそうです。

啄木が水晶占いやこんな大きな水晶玉の存在を当時知っていたかどうか、今のところ未詳です。また当時の日本産水晶原石から上記のような大きな水晶の玉が作られたかどうかも分かりません。

「大いなる水晶の玉」は啄木が6月に「よろこびもてあそ」んだ小さな「水晶の玉」から想像で作り出したものではないかと思われます。

人の心の瞬間の動きから日本や世界の現在や未来まで見える啄木ですから、2,572,500円の大きな水晶の玉があって、「それにむかひて物を思」ったら、どんな不思議な心が展開されていったか想像もつきません。

かれが「大いなる水晶の玉」に向かった時まず第一に思いたかったことは大逆事件をめぐる諸問題であったことは確実です。事件の厳重な隠蔽、極秘のうちに進められる検挙・取り調べ、予想される秘密裁判、何もかもが暗黒裏に進行する事件ですから、透明の美しい小宇宙のような水晶の玉に向かったなら、隠されている諸々を見せてくれるかも知れない、と啄木は空想したのでしょう。

<解釈>大きい無色透明の水晶の玉をひとつ欲しい。それに向かって物を思ったならば、暗黒裏に進行する幸徳事件の真相が見えてくるかも知れないから。

54、55ページの見開きの3首で「心の不思議な動き」をうたってきた啄木は、「大いなる水晶の玉」があったなら、すごい心の不思議が起こることだろうと暗示しつつ、見開きを閉じたのだと思われます。

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