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2011年6月

2011年6月30日 (木)

「我を愛する歌」の研究 32

60―61ページ

     邦人の顔たへがたく卑しげに
     目にうつる日なり
     家にこもらむ

【解釈】植民地地獄に落とされた韓国千数百万人の悲嘆悲痛を思う気持ちなど微塵もない、ただ奪いまくり掠めまくることしか考えず、お祭り騒ぎをする邦人(=日本人)。日本人の顔がたえがたく卑しげに見える日だ。かれらの顔を見なくても済むように家に引きこもろう。

     この次の休日に一日寝てみむと
     思ひすごしぬ
     三年このかた

【解釈】この次の休日には何もしないで、一日ゆっくり家で寝ていたいものだ、と思いながら、このところずっとその希望は実現できないままだ。

     或る時のわれのこころを
     焼きたての
     麵麭に似たりと思ひけるかな

【解釈】ある時の自分の晴れやかな、表に出て人目に触れたいと願うこころを、焼きたてのパンのイメージに似ているな、と思ったのだった。

     たんたらたらたんたらたらと
     雨滴が
     痛むあたまにひびくかなしさ

【解釈】たん!………、たん!………と断続して落ちる雨垂れが、その度に頭痛のあたまに響く。家にこもっているしかないので、雨垂れが増幅する頭痛から逃れようもないでいるこの切なさ。

注解】3首目を「転」と考えて、主題、家にこもる。

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2011年6月28日 (火)

「我を愛する歌」の研究 31

58―59ページ

     遠方に電話の鈴の鳴るごとく
     今日も耳鳴る
     かなしき日かな

【解釈】遠くで電話の鈴が鳴るように、今日も耳が鳴っている。(ほとんど言語に絶する忙しさのせいだろう。仕事が一段落するまで直りはすまい。今日も)かなしい日だ!

     垢じみし袷の襟よ
     かなしくも
     ふるさとの胡桃焼くるにほひす

【解釈】この2年半の私と家族の生活の激動がしみ込んだような、垢じみた袷の襟の匂いをふと嗅ぐと、かなしくもまあ、恋しいふるさとの、宝徳寺の、庫裏(住職一家の住むところ)の、囲炉裏で胡桃が焼けた時の匂いがする。

     死にたくてならぬ時あり
     はばかりに人目を避けて
     怖き顔する

【解釈】小説が書けなくてこの世がいやになり、剃刀で心臓を割いて死にたいと思うが、そんなことはどうしてもできない。そこで人に見られないように便所に隠れ、剃刀を胸に当てて「オレは本気だぞ」と怖い顔をしてみたこともあった。

     一隊の兵を見送りて
     かなしかり
     何ぞ彼等のうれひ無げなる

【解釈】行進して行く兵士の一隊を見送って私はかなしかった。かれらの表情には何の愁いもなさそうに見えたから。

注解】かなしい心四態。

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2011年6月26日 (日)

「我を愛する歌」の研究 30

56―57ページ

     うぬ惚るる友に
     合槌うちてゐぬ
     施与をするごとき心に

【解釈】自惚れる友が語るのに相槌を打っていた。まるで施しをしているような心で。

     ある朝のかなしき夢のさめぎはに
     鼻に入り来し
     味噌を煮る香よ

【解釈】ある朝切ない恋の夢を見てそのさめぎわに、隣の部屋から家人が煮る味噌の香が漂ってきて、わたしを夢からうつつへと連れ出したのだった。

     こつこつと空地に石をきざむ音
     耳につき来ぬ
     家に入るまで

【解釈】帰宅の途中、コツコツと空き地で石を刻む音が気になった。家に入るまでずっと聞こえているような気がした。

     何がなしに
     頭のなかに崖ありて
     日毎に土のくづるるごとし

【解釈】(最近ぼくの意識の正常さが毎日少しずつ崩れて異常になって行くのを感じる。)なんだか、ぼくの頭の中に崖があって毎日その土が崩れているような感覚だ。

注解】意識の様態4つ。

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2011年6月24日 (金)

「我を愛する歌」の研究 29 

54-55ページ

     とある日に
     酒をのみたくてならぬごとく
     今日われ切に金を欲りせり 

【解釈】このところ英書を買う金が欲しいと思っているわたしだが、ある日突然無性に酒が飲みたくなるように、今日突然心底から英書を買う金が欲しい!と思うことだ。

     水晶の玉をよろこびもてあそぶ
     わがこの心
     何の心ぞ
 
【解釈】水晶の玉を見つけてよろこび、それを掌に乗せてもてあそんでいると、いつの間にか緊張した思索から解放されている。この小さな透明の玉によってこう変化する心って、いったいどういう心なんだ?

     事もなく
     且つこころよく肥えてゆく
     わがこのごろの物足らぬかな 

【解釈】取り立てて言うべき事件もなくそれとともに気持ちよく肥ってゆくこのごろの生活を、私の心は満足するのではなく、かえって物足りないと感じている。不思議なことだ。

     大いなる水晶の玉を
     ひとつ欲し
     それにむかひて物を思はむ 

【解釈】大きい無色透明の水晶の玉をひとつ欲しい。それに向かって物を思ったならば、暗黒裏に進行する幸徳事件の真相が見えてくるかも知れないから。

注解】4首共通の主題、心の動きの不思議。

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2011年6月22日 (水)

「我を愛する歌」の研究 28

52-53ページ

     人並みの才に過ぎざる
     わが友の
     深き不平もあはれなるかな 

【解釈】人並みの才能でしかない友の不平を聞いていると、その不平が深ければ深いほど、友の自己認識の浅さが露わになり、かわいそうになってしまう。同時に私の「見えすぎるかなしみ」も深まるのだ。 

     誰が見てもとりどころなき男来て
     威張りて帰りぬ
     かなしくもあるか 

【解釈】だれが見てもとりどころのない男が酔っ払って遊びに来て、怪気炎を吐き大威張りして帰っていった。底の浅さが露出しているような男の怪気炎につきあっていると、ただただ憐れさがつのる。

     はたらけど
     はたらけど猶わが生活楽にならざり
     ぢつと手を見る
 
【解釈】週6日の出勤、その上3日に1度は夜勤、その他に二葉亭全集の校訂・編集、その他に(小説、評論、短歌などの)原稿書き。こうして働いてもそして働いても、わたしと家族の生活は楽にならない。家族が5人であること、返済中の借金があることなど、自分には特殊な事情もある。それにしてもこの「楽にならなさ」はどうだ。そう思って給料を稼ぎ出すわが手をじっと見つめていると、マルクス・幸徳らの説いているのが思い起こされる。貧乏は資本家的生産の社会で働く人々に共通の大問題なのだ、と。

     何もかも行末の事みゆるごとき
     このかなしみは
     拭ひあへずも 

【解釈】大逆事件の被告たちの前途には秋水死刑を含む苛酷な判決が待っているようだ。何もかも行く末の事が見える気のするこのかなしみは、ああどうしても拭い去ることができない。

注解】4首共通の主題、見えすぎるかなしみ。

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2011年6月20日 (月)

「我を愛する歌」の研究 27

50-51ページ

     我に似し友の二人よ
     一人は死に
     一人は牢を出でて今病む
 
【解釈】私に似た友の二人であった小野弘吉君、宮永佐吉君。東大でまじめに勉強していた小野君は夭折し、東京でゴロツキの小親分になっていた宮永君は牢を出て今病床に伏せっている。

     あまりある才を抱きて
     妻のため
     おもひわづらふ友をかなしむ 

【解釈】あまりある才能を持ちながら、その才能を実現しようとせず、ただ奥さんとの関係を思い煩って時間を費消して行く友を、遠く離れた地にいて悲しく思うことだ。

     打明けて語りて
     何か損をせしごとく思ひて
     友とわかれぬ

【解釈】友と話しをしているうちに自分のとっておきの秘め事を無性に「打明けて語り」たくなった。(ところがしゃべっていると相手が期待したほどの理解も共鳴もしてくれないのに気づく。この友にはしゃべるんじゃなかったとほぞをかむ。もうおそい。)語り終えて後、大切なものを失ったような索漠とした思いになって、別れたのだった。

     どんよりと
     くもれる空を見てゐしに
     人を殺したくなりにけるかな 

【解釈】どんよりとくもった空を見上げていたら、「我々青年を囲繞(ゐぜう)する空気は、今やもう少しも流動しなくなつた」時代閉塞の現状と重なってきて、自分の中にテロリストの心が動き出し、強権の担当者を殺したくなってしまったことよ。

注解】4首共通の主題、自分の中に他人を見る

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2011年6月18日 (土)

「我を愛する歌」の研究 26

48-49ページ

     友よさは
     乞食に卑しさ厭ふなかれ
     餓ゑたる時は我も爾りき 

【解釈】友よ、乞食の卑しさをきらってはいけない。かれは好き好んでああしているのではない。日本の社会組織・経済組織によって生み出されたのだ。かれも人間ぼくも人間。ぼくだって食物が無くて空腹に苦しんだ時は卑しくならざるをえなかった。

     新しきインクのにほひ
     栓抜けば
     餓ゑたる腹に沁むがかなしも 

【解釈】インクがなくなったので新しいインクびんを取って栓を抜くと、鉄くさいようなインクの刺激臭が鼻につんときた。とたんにそれが空腹を刺激して飢餓感を誘発した。切ないことだ。

     かなしきは
     喉のかわきをこらへつつ
     夜寒の夜具にちぢこまる時 

【解釈】どうにも切ないのは、喉は渇くが布団を出る気にはなれぬまま、晩秋の夜の寒さが忍び込んで来る布団の中にひたすら身をちぢめている時だ。

     一度でも我に頭を下げさせし
     人みな死ねと
     いのりてしこと 

【解釈】飢えや寒さの恐怖をちらつかせて、一度でもおれに頭を下げさせたやつら、みんな死んじまえ!と念じちゃったこと(があったな)。

注解】餓えと寒さ。

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2011年6月16日 (木)

「我を愛する歌」の研究 25

46-47ページ

     何やらむ
     穏かならぬ目付して
     鶴嘴を打つ群を見てゐる 

【解釈】なんだ?あの男は険しい目付きで鶴嘴を打つ工夫たちを見ているぞ。(考えてみると通りがかりの自分には関係ないことなのに、ついこうして気になってしまうんだなあ、このおれは。)

     心より今日は逃げ去れり
     病ある獣のごとき
     不平逃げ去れり 

【解釈】心から今日は不平が逃げ去った。病をもつ獣のような、恰度忘れてゐた傷の痛みが俄に疼き出して来る様な、あの不平が今日は逃げ去った。

     おほどかの心来れり
     あるくにも
     腹に力のたまるがごとし 

【解釈】ぼくが切り開いた新しい短歌は今高い評価を獲得しつつある。渋川氏の評価はその象徴的出来事だ。そう思うと、おおらかな心がどこからかやって来て、歩く時にも下腹に力がたまって、全身に元気が満ちているような気がする。

     ただひとり泣かまほしさに
     来て寝たる
     宿屋の夜具のこころよさかな 

【解釈】(自分の時間のほとんどを家族扶養のために用いる自分と、文学に全力を傾注したい自分とを統一しようと、ここ3、4ヵ月がんばった見たが結局不可能だった。一家の主として生活するということは、文学者としての自分をワナにかけるようなものだ。ワナからのがれる道は無いか……。無い。)こう考えたら一人きりになって泣いてみたくなった。そこで家に帰らずに宿屋に泊まることにした。その宿の夜具のこころよかったこと!

注解】気になる心→逃げ去る心→入ってくる心→湧いてきた心。

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2011年6月14日 (火)

「我を愛する歌」の研究 24

44-45ページ

     時ありて
     子供のやうにたはむれす
     恋ある人のなさぬ業かな 

【解釈】何かの拍子にいい年をした男が子供のようにふざけたりする。どうして年甲斐も無いことをするんだ? 私に軽薄さがあるからだ。たとえば恋をしている男なら恋人を鏡として、軽薄さが表れないように自分を持するだろう。ところがどうだ、私のこの軽さは。

     とかくして家を出づれば
     日光のあたたかさあり
     息ふかく吸ふ
 
【解釈】なにやかやと用事をして(たとえば手紙を書くとか、歌を作るとか)、家を出ると、春の太陽が明るく暖かくわが身に降り注ぐ。わたしはそれを胸一杯に吸い込む。思えばこの明るさ・暖かさはわが家の中には無いものだった。

     つかれたる牛のよだれは
     たらたらと
     千万年も尽きざるごとし 

【解釈】もう考えることにも小説を書くことにもつかれてしまったぼくは、何をしても何を試みてもマンネリズム。つかれた牛のよだれと同じで際限もなく似た考え、似た試みが出てくるだけだ。

     路傍の切石の上に
     腕拱みて
     空を見上ぐる男ありたり 

【解釈】銀座の敷石の鋪道の脇で、通り過ぎる人々をよそに、腕を拱んで空を見上げている男があった。その男はつきまとう「利己の一念」をめぐってはたと思いあたることがあり、考えこむわたし自身であった。

注解】p.44=自覚。p.45=堂々巡り。

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2011年6月12日 (日)

「我を愛する歌」の研究 23

42-43ページ

     ことさらに燈火を消して
     まぢまぢと思ひてゐしは
     わけもなきこと 

【解釈】わざとランプを消して、暗がりの一点をじっと見つめて思っていたのは、じつはたわいのないことであった。

     浅草の凌雲閣のいただきに
     腕組みし日の
     長き日記かな 

【解釈】浅草の凌雲閣の展望台で、自分の今とこれからをどうしたらいいのか腕を組んで思いつめたのだった。けれどなんの結論も出なかった。あの日下宿に帰ってから書いたローマ字の長い日記よ。

     尋常のおどけならむや
     ナイフ持ち死ぬまねをする
     その顔その顔
 
【解釈】あれは尋常なふざけ方だっただろうか、いやちがう。ナイフをふりあげて死ぬ(殺す)まねをした時の自分の顔、友の顔 。友はあんなに恐ろしがった。自分はそれほど恐ろしい顔をしていたのだ、小説が書けぬことを思いつめた果てに。

     こそこその話がやがて高くなり
     ピストル鳴りて
     人生終る
 
【解釈】ピストルをこめかみ(?)に当てて、「おれは死ぬ」。友人は驚いて「馬鹿なことはよしなさい」と止める。だんだんそのやり取りの声が高くなっていった時、自分は引き金を引く。パーン、わが人生はかくて終わる。

注解】4首共通の主題、思い詰めた時。

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2011年6月10日 (金)

「我を愛する歌」の研究 22

40-41ページ

     目の前の菓子皿などを
     かりかりと噛みてみたくなりぬ
     もどかしきかな

【解釈】目の前の菓子皿などをかりかりと噛んでみたくなった。ああ、もどかしい! かりかりと噛めるものならこのもどかしさからちょっとは脱却できように。

     よく笑ふ若き男の
     死にたらば
     すこしはこの世のさびしくもなれ 

【解釈】よく笑いよく人を笑わせる、才能もけっこうある若い男、と見られている自分だけれど、もしここで自殺したらどうなるだろう。「この世」における自分の存在感の希薄さからすれば、死んでも「この世」は何にも思わないだろうな。「少しは・・・さびしくもな」ってくれよ。

     何がなしに
     息きれるまで駆け出してみたくなりたり
     草原などを
 
【解釈】なんという息苦しい時代なのだ。なんだか、息が切れるところまで思いっきり駆け出してみたくなった。それもひんやりとして緑あざやかな草原などを。

     あたらしき背広など着て
     旅をせむ
     しかく今年も思ひ過ぎたる

【解釈】新調の背広などを着てちょっと晴れがましいような気分で旅に出たい。旅先では新しい風土、新しい事物、はじめての人々等に出会い心身をリフレッシュできることだろう。そのように今年も思ったが今年も過ぎてしまった。

注解】現状からの脱却・脱出願望。

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2011年6月 8日 (水)

「我を愛する歌」の研究 21

38-39ページ

     死ね死ねと己を怒り
     もだしたる
     心の底の暗きむなしさ 

【解釈】「死ね死ね」と小説を書けないだめな自分を責め立ててみても、その自分を殺すことはできない。結局黙ってしまうしかない。黙った時に心の底にわだかまるのは暗い虚無すなわち絶望。

     けものめく顔あり口をあけたてす
     とのみ見てゐぬ

     人の語るを 
【解釈】目の前に獣のような顔があって口を開けたり閉めたりしていらあ、ということしか考えずに、人がしゃべるのを見ていた。

     親と子と
     はなればなれの心もて静かに対ふ
     気まづきや何ぞ 

【解釈】父と息子が離れ離れの心をいだいて、ものも言わず向かい合う時、気まずい空気が生ずるのはどうしてだろう。

     かの船の
     かの航海の船客の一人にてありき
     死にかねたるは
 
【解釈】(渋民村を「石をもて追はるるごとく」出て来た私は今日ふるさとを失った。もう帰るところがない。傷心の私をやさしく迎え、抱きとめてくれる場所を永遠に失ったのだ。ほんとなら東京に出て文学に打ち込むべきなのに、行く手は内国植民地北海道。どんな生活が待っているのやら心細さは限りがない。ああいっそ黒い海に飛び込んで死んでしまおうか。)あの船の甲板から海をのぞき込みながらそう思っても死ねなかったのは、船客の一人である私だった。

注解】4首共通の主題、場から乖離する心。

2011年6月 6日 (月)

「我を愛する歌」の研究 20

36-37ページ     

     空寝入生呿呻など
     なぜするや
     思ふこと人にさとらせぬため 

【解釈】人前で空寝入生欠伸などをなぜするのか?  ほんとうに自分の言いたいことを押し隠すためだ。

     箸止めてふつと思ひぬ
     やうやくに
     世のならはしに慣れにけるかな 

【解釈】食事中無意識のうちに作法通りに食べている自分に気づき箸を止めて思った。あんなに世のならわしに背き続けた自分だが、とうとう世のならわしに慣れて自分を押し隠し、真面目に勤めていることだなあ。

     朝はやく
     婚期を過ぎし妹の
     恋文めける文を読めりけり
 
【解釈】朝はやく婚期を過ぎて数え年22にもなった妹から手紙を受け取った。妹は「一生を神に捧げて」伝道婦になるというが、兄のわたし宛の手紙なのにまるで恋文のような文章になっている。かわいそうに、妹の押し隠した「我」がこの手紙に表出しているのだ。妹だけではない。自分もそして人はみな、「我」を押し隠して生きている、そう思いながら手紙を読んでいたことであったよ。

     しつとりと
     水を吸ひたる海綿の
     重さに似たる心地おぼゆる
 
【解釈】人は空寝入り・生欠伸や勤め人生活や手紙といったごく日常的な事柄の奥に、より本質的な「我」を抱えているものだが、それを思うとしっとりと水を含んだ海綿の重さに似た、気分の重さをわたしは感じる。

注解】4首共通の主題、押し隠した自我。

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2011年6月 4日 (土)

「我を愛する歌」の研究 19

34-35ページ

     剽軽の性なりし友の死顔の
     青き疲れが
     いまも目にあり 

【解釈】剽軽な性質だった友の死顔の、青さの中に浮き出た人生の疲れが、今もはっきりと印象に残っている。友のおどけの裏には人生のやりれない辛さや悲しさがあったのだ。この自分と同じように。

     気の変る人に仕へて
     つくづくと
     わが世がいやになりにけるかな 

【解釈】気の変わる社長に仕えて、つくづく自分の今の仕事がいやになってしまったことだ。

     龍のごとくむなしき空に躍り出でて
     消えゆく煙
     見れば飽かなく

【解釈】龍のように勢いよく力強く大空に躍り出て、もくもくと登りついに消えてゆく煙を見ていると、飽きることがない。

     こころよき疲れなるかな
     息もつかず
     仕事をしたる後のこの疲れ
 
【解釈】何に限らず一日暇なく仕事をした後の心持はたとうるものもなく楽しい。人生の真の深い意味はけだしここにあるのだろう!

注解】p.34=世間での鬱屈・職場での鬱屈。p.35=鬱屈からの解放願望(3首目は起承転結の転に相当する役割)・鬱屈からの解放のひととき。

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2011年6月 2日 (木)

「我を愛する歌」の研究 18  

32-33ページ

     死ぬことを
     持薬をのむがごとくにも我はおもへり
     心いためば 

【解釈】心がいたむと、「もう死んでしまおうか」と思ったものだった。持薬をのむと病が一時的に癒やされるように、そう思うと心のいたみが少し楽になるのだった。

     路傍に犬ながながと?呻しぬ
     われも真似しぬ
     うらやましさに 

【解釈】道ばたで犬が大きな口を開けてながながとあくびした。この世の屈託は何もないかのように。私もまねをしてながながとあくびしてみた。犬がうらやましくて。

     真剣になりて竹もて犬を撃つ
     小児の顔を
     よしと思へり 

【解釈】真剣になって竹の棒で犬を撃つ幼児の顔は思いと行いの一致を表出している。いい顔だ。

     ダイナモの
     重き唸りのここちよさよ
     あはれこのごとく物を言はまし
 
【解釈】ダイナモの重々しい唸るような音の心地よさよ。言論弾圧の嵐が吹きすさぶこの時代にあって、ああ、このダイナモのように思うさま発言できたらよいのに。

注解】p.32=窮迫した心・屈託した心。p.33=子供の一途な自己表現(3首目は起承転結の転に相当する役割)・表現の自由への希求。

<ブログをお読みいただくに際してのお願い>

このブログの勘どころは【注解】にあります。いつも【注解】にご注目の上、次の2点を実行してください。

朝日文庫版のテキストに帰って啄木の編集・割付の巧緻を、さらに組版(字体を含む)の妙を味わってください。

【解釈】は【注解】の理解に必要最小限の内容です。【解釈】をほんとうに理解するためには右のマイリストから「石川啄木著『一握の砂』を読む」に行き、「『一握の砂』全歌評釈」の当該歌に当たってください。

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