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2011年7月14日 (木)

「我を愛する歌」の研究 39

74―75ページ

     男とうまれ男と交り
     負けてをり
     かるがゆゑにや秋が身に沁む

【解釈】男としてこの世に生を受け、作家を志し、作家たちの中に入って行って抜きん出たいと思ったのだが、未だに会心作はできず、この度は最も自信をもって執筆した「我等の一団と彼」も失敗した。また負けた。作家としての自分の後れははなはだしい。そのせいだろうか、この秋の気配が身に沁みる。

     わが抱く思想はすべて
     金なきに因するごとし
     秋の風吹く

【解釈】私が抱く日本の社会制度、経済制度、政治制度等に関するもろもろの見解はすべて金のないことに原因するようだ。(家の内は相変わらずの貧乏。戸外には私に多くのことを考えさせる明治43年の)秋の風が吹いている。

     くだらない小説を書きてよろこべる
     男憐れなり
     初秋の風

【解釈】大逆事件・韓国併合という歴史的事件の渦中で「時代閉塞の現状」を書き上げたばかりの私の目から見ると、書きかけの「我等の一団と彼」はくだらない小説だ。こんなものを書いてよろこんでいる私はみじめというほかない。みじめさを際立たせるかのように、快い初秋の風が吹いている。

     秋の風
     今日よりは彼のふやけたる男に
     口を利かじと思ふ

【解釈】爽やかな秋の風によって心が新たになったぼくは、これを機に青年歌人を称するだらけてしまりのない近藤元のような輩とは縁を切ろうと思う。

注解】4首共通の主題、明治四十三年秋のわが心。

   <ブログをお読みいただくに際してのお願い>

このブログの勘どころは【注解】にあります。いつも【注解】にご注目の上、次の2点を実行してください。

朝日文庫版のテキストに帰って啄木の編集・割付の巧緻を、さらに組版(字体を含む)の妙を味わってください。

【解釈】は【注解】の理解に必要最小限の内容です。【解釈】をほんとうに理解するためには右のマイリストから「石川啄木著『一握の砂』を読む」に行き、「『一握の砂』全歌評釈」の当該歌に当たってください。

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