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2011年8月12日 (金)

(定本悲しき玩具)一握の砂以後 解説 10

『一握の砂』が出版されたのは12月初めであるが、次の描写は同じ12月の中・下旬頃の啄木自身である。

 今度の風邪(かぜ)は却々(なかなか)抜けなかつた。……

 十日ばかりといふもの、咳をしながら焦々(いらいら)した不愉快な気持を抱いて過した。朝には左程でもない頭が、夕方になつて勤め先の仕事の済む頃には、腐れかゝつた西瓜のやうに重かつた。

 余り咳が続いて出る為に、左の腹に懐中時計ほどの瘤が出来て、それを揉んで散らさない事には身体を反(そ)らされないこともあった。電車の中で二度ばかりもそんな目に逢つた。家(うち)に帰ると、家には又色々の用が待つてゐた。

 約束の期限が切れて催促を受けた原稿の、まだ書き上げかねてゐるのもあつた。

 殊に歌の原稿には弱つた。いくら努めて見ても、妙にふやけた頭からは一首の歌も浮んで来てくれなかつた。洟(はな)をかむと、洟が頭の中から流れて来るかのやうな厭な感じがした。
   ……… (以下次回)

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