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2011年12月22日 (木)

幻の啄木歌集「仕事の後」 37

この日から節子帰宅(10月26日)までの間に、啄木の変身は完了した。

啄木はこの世のあらゆることを直視する人となった。

まず何よりも先に自分自身を徹底的に直視した。

その結果、自分は「天才」でも「詩人」でもなく、普通の「人」であると認めた。

そして長い間馬鹿にしてきた、自分と家族が生きてゆくための勤め(職業)が生活上の最優先事項であり、家族の扶養こそもっとも重要な「責任」であることを、誠実に再確認した。

これまでの自分を「空想家――責任に対する極度の卑怯者」と規定した(「弓町より」)。

啄木の直視は自分自身に留まらなかった。啄木自身の言葉を引くと「ふと、今迄笑つてゐたやうな事柄が、すべて、急に、笑ふ事が出来なくなつたような心持になつた」(同右)。

それはとりもなおさず、「生活」の発見であった。

「生活」の発見は、世の中に無数にいる「生活者」の発見でもあった。

世の中の「生活者」は孜々として働き、金を得、自らと家族をやしなっているではないか。

天才主義の啄木にとって世の中の人々は「教化」の対象であった。

自分を「生活者」と規定するやいなや、世の中の無数の「生活者」が自分と同じ立場の人間たちとして立ち現れた。

「生活者」の発見は「民衆」の発見でもあった。

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