« 石川啄木伝 東京編 その10 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 その12 »

2012年10月 8日 (月)

石川啄木伝 東京編 その11

 「病院の窓」91枚を脱稿するのは5月26日だが、少し前に戻ろう。
貞子は18日にも来た。来ると啄木の部屋にいた金田一と並木武雄は座をはずし、「下の室(金田一の部屋-引用者)に行つた」。貞子は2時頃から8時頃までいた。この日も情交があったのだろう。しかし間もなく妻子老母の来る身である。啄木は別れ話を切り出したらしい。
 20日。
 三時頃に貞子さんが来た。来た時は非常に元気がよかつたが、段々と靜(ママ)んで来た。噫、段々沈んで来た。昨夜決心したと云つて居たが、其の決心が、逢つて話してるうちに鈍り出したのだ。温かな夕べ。
八時頃かへつて行く。

 すでに情交のある若い男と女が五時間も別れ話をしているわけがあるまい。赤心館もとんだ下宿人を置いたものだ。これで金払いも悪ければ最悪の下宿人だ。
 この日の夜から、ツルゲーネフ作・相馬御風訳『その前夜』(内外出版協会)を読みはじめる。この4月に出版されたばかりの本だ。半分ほど読んだ。感想をこう記す。
  どの人物も、どの人物も、生きた人を見る如くハツキリとして居る書振り! 予は巻を擲つて頭を掻きむしつた。心悪きは才人の筆なる哉。
 ツルゲーネフは啄木からみると「才人」である。かれ自身は「天才」なのだ。この意識に注目しておきたい。啄木の「天才」振りを見るために日記をもう2つ引いておこう。
 5月22日の日記。
 “On the eve”を読みつづける。噫、インサロフとエレネの熱き恋! 予は頭を掻乱される様だので、室の中を転げ廻つた末、〝ツルゲーネフ! 予の心を狂せしめんとする者は彼なり。”と書いた手紙を下の金田一君にやる。金田一君が来た。予は唯モウ頭が乱れて、〝ツルゲーネフの野郎〃と呼んだ。そして必ずこのOn the eveと競争するものを今年中にかくと云つた。
 女中を呼んで、二階の金田一に手紙を届けさせたのだ。

« 石川啄木伝 東京編 その10 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 その12 »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533861/55844164

この記事へのトラックバック一覧です: 石川啄木伝 東京編 その11:

« 石川啄木伝 東京編 その10 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 その12 »