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2012年10月22日 (月)

石川啄木伝 東京編 18

 真山青果の『南小泉村』に描写される生々しい農民達の容貌、生活ぶり、金銭感覚を想起すると、「お定の汽車賃も出す」などという大工の娘の金銭感覚は渋民村に存在しようがない。こんな脳天気な金銭感覚の持ち主が村にいたとすれば石川啄木その人だけであろう。
 総じて真山青果『南小泉村』や長塚節『土』 の農民・農村描写の迫真性とは比べようもない。
 もう述べるまでもないのだが、「家出」についても見ておこう。『寄生木』の良平は前述のように資産家の次男である。男尊女卑時代の男である。お定やお八重のように女なのではない。それでさえ、家出しようにも一文無しだった。「祖母(ばば)や母や兄やに相談したら所詮駄目。そこで1円を工面するのに同窓の友人に「洋装金文字入英字書と地理書」を贈り、富家(かねもち)の県会議員であるその父から餞別に50銭を貰う。その家ではあとで祖父からといって追加の50銭をくれた。良平はその計1円をもって家出を決行したのだ。貯金などは想像もできない。
 啄木が函館で大島経男から借覧した中村星湖『少年行』の主人公奈良原武の家出をみてみよう。武の父は川口湖(河口湖)の北岸川口村で糸繭を商う兼業農家である。武は山梨中学に入りたいが、とても父の許しが得られそうもない。そこで家出を決意する。金は良平同様一文もない。「明治三十○年」のことである。武は父の取引先の仲買人に糸荷を運んだがその時受けとった売掛金5円25銭に母からもらった小遣いの10銭を足した5円35銭を握ってそのまま家出を決行する。そして夜道を誤って崖に出、水中に落ちて意識を失う。溺れ死ぬところを助けられ蘇生する。
 少年たちの家出でさえ、これほどの困難を伴うのである。まして若い女たちにおいてをや。

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