« 石川啄木伝 東京編 18 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 20 »

2012年10月24日 (水)

石川啄木伝 東京編 19

 これ以上論ずるに及ぶまい。啄木の「天鵞絨」はまったくの絵空事である。
 駄作の「病院の窓」と絵空事の「天鵞絨」を啄木は森鴎外宅に持ち込んだ。鴎外はこれらを春陽堂に売り込んでくれた。啄木に対する大変な厚意である。春陽堂は鴎外の顔を立てて「病院の窓」を買い取ってくれた(ついに雑誌に載せなかったが)。「天鵞絨」ではなく駄作の「病院の窓」を春陽堂が取ったというのは、「天鵞絨」を「病院の窓」以上の駄作と評価した事を示している。
 当時の農村生活が実感できないほどに時が隔たって、その生活をイメージすらできない人たちがこの作品を読む時代になってはじめて、これを高く評価する人たちも現れたのである。
 「天鵞絨」の歯が浮くような絵空事は農村のことだけではない。床屋の源助一家のそろってあまりに善人なのもひどく非現実的だ。が、もうふれまい。
 こんな小説だが、取り柄がないわけではない。これまでの小説はすべて実質的に自己を中心とし、自己の他者との関係をプロットにしてきた。ここに来て、小説内の主たる関係は他者と他者(お定とお八重)の関係になっている。啄木小説ではじめてのことである。ここに小説「鳥影」への橋が架けられたとは言えよう。

« 石川啄木伝 東京編 18 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 20 »

文化・芸術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533861/55937254

この記事へのトラックバック一覧です: 石川啄木伝 東京編 19:

« 石川啄木伝 東京編 18 | トップページ | 石川啄木伝 東京編 20 »