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2012年12月 6日 (木)

石川啄木伝 東京編 40

 夕方に百合の花をまた買つて来て、白のうちに1本の赤を交へてたのしんだ。夜に金田一君と2人例の散歩。電柱の下に立つてゐた美人を見た。
 昨夜と同じ精神状態になって来たらしい。
 「すき歩き」から帰ってからだろう。また歌の奔流がはじまった。日記は記す。
   頭がすつかり歌になつてゐる。何を見ても何を聞いてもみな歌だ。
 赤いインクをペンに付けて歌を記し始める(赤インクは冒頭六首まで)。うち最初の三首。
1、風のごととらへがたなき少女子の心を射むとわれ弓をとる
2、三百の職工は皆血を吐きぬ大炎熱の午後の一時に
3、火をつくる大エンヂンのかたはらに若き男の屍をつむ(推敲前の形)
 またしても奇怪・異様な歌々のはじまりである。止め処もなく作り続ける。
49、庭の木の七本撼れど一本も動かず地に座して涙す
58、わがかぶる帽子の庇大空を覆ひて重し声も出でなく
59、炎天の下わが前を大いなる沓ただ一つ牛の如行く
66、大木の枝ことごとくきりすてし後の姿の寂しきかなや
 86首まで作って来てようやく吐き出す奇想もほぼ尽きたらしい。
87、我は今のこる最後の一本の煙草を把りてつくづくと見る
 もう1首作ったところで突然父母妻子を歌いはじめる。
89、灯なき室に我あり父と母壁の中より杖つきて出づ
91、われ天を仰ぎて嘆ず恋妻の文に半月かへりごとせで
94、父母のあまり過ぎたる愛育にかく風狂の児となりしかな
97、いと重くやみて痩せぬと文よめど夢に見る児は笑みて痩せざり

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