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2013年1月 6日 (日)

石川啄木伝 東京編 53

 

ところが鉄幹が直して「明星」に発表した歌は、
   石ひとつ落ちぬる時におもしろし万山を撼る谷のとどろき
と、なつている。
  これでは、山の上から自然に大きな石がころがり落ち、山をゆすぶるようなひびきが、谷底からとどろいてくるのがおもしろいという、客観描写で、自分から積極的にころがし落すという、はげしい感情とは、およそ反対で、作者の意図とはまるでちがつたものになつている。したがつてこの歌からは、石破という意味、感情が全然うけとられない。啄木が直されたために、感情が虚偽になつていると不満をいつているのも、当然といわねぼならない。

 これもほぼ正鵠を得ている。
 自ら落とした石が、自然に落ちた石に変えられてはたまらない。
 岩ではなく「石」であるから、そんなに大きなものではない。それを「一」つ落としたところ、ものすごい破壊を引き起こし、ついには谷底で「一」つの山を揺るがすようなとどろきとなった、と言うのである。それを「万山」に変えられては二重にたまらない。
 啄木は明星に原稿を送る時にはすでに、この歌一首を自分が落とした「石一つ」になぞらえていたのだと思われる。先に見たとおり、この歌を作ることによって歌人石川啄木のビッグバンは始まったのだった。
 寛が手を入れたと思われる歌は、20首前後ありそうだが、啄木が「皆原作より悪い。感情が虚偽になつてゐる。……少し気持ちが悪い」というのは分かるような気がする。
 ただし「たはむれに母を背負ひてその余り軽きに泣きて三歩あるかず」は啄木の原稿だが、「三歩あゆまず」に変えたのは寛らしい。そして啄木はこの手直しは結局受け入れた。

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