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2013年1月 8日 (火)

石川啄木伝 東京編 54

 7月11日。
 万葉集を読む、あるかなきかの才を弄ばんとする自分の歌がかなしくなつた。
 吉井の勧めであろうか、中学時代愛読書だった万葉集を読みはじめたのだ。啄木にしてはずいぶん謙虚でしおらしい日記である。
 6月27日ころから7月27日ころにかけて、啄木は生涯で一番「死ぬ、死ぬ」と書く。死ぬ気はまったくない。そう書くことでむしろ生きる力を回復しているかのごとくである。後にうたったように「持薬をのむ」ように 死ぬことを思ってみるのである。
 7月18日。
  起きたのは八時頃であらう。
  しめやかな気持が続いてゐる。この数日は、女といふものが自分の心から遠ざかつた様だ。其代りに、生命その者に対する倦怠――死を欲する心が時々起つて来る。歌を作つてるのは、煙草をのむと同じ効能がある。それ以上の事はない。そして、一人何もせずにゐると、自分は遂に敗れたる哀れな―― soul だ!
  日一日と麻痺してゆく心! これが人生の最も悲惨なる悲劇だ。イヤだ、イヤだ。
  並木君が来た。明日立つて函館に帰るといふ。何か用がないかといふ問!
  吉野君にかなしい手紙を書いた。そしてせつ子にも書いた。並木が帰るのに、何も京子に買つてやれぬから許してくれと。
  並木君が帰つて、若し自分の現下の境遇をその儘話したら、母と妻の心は怎うだらう。若し又、何気なく表面だけの嘘を云つてくれて、そして母と妻がそれを信じて安心するとしたら怎うだらう。予は今、自分一個の処置にさへ窮してゐるぢやないか!
  Three of themを読んでしまつた。Iliaは遂に石の壁に頭をうちつけて死んだ!

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