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2013年1月10日 (木)

石川啄木伝 東京編 55

 7月19日。吉井勇が来て「浜町十三軒の淫売屋の話」をとくとくとしゃべる。啄木はうらやましさをにじませて、日記にその話を記す。「病院の窓」のモデル佐藤衣川が下宿の窓の下を通りかかる。部屋に呼び入れる。佐藤が帰った後、月城阿部和喜衛が遊びに来る。豊巻剛、岡山儀七、小林茂雄とともに盛岡で「小天地」の編集発刊を熱心に手伝ったメンバーの一人だ。この阿部がどんな経緯があったのか、今弓町2丁目1番地の平民書房(出版社)に泊まっ ている。その平民書房はついこの1月8日の「屋上演説事件 」の舞台である。
 7月20日。
 古い日誌を取出して、枕の上で読む。五行か十行読むと、もう悲しさが胸一杯に迫つて来て、日誌を投げ出しては目を瞑つた。こんな悲しい事があらうか。読んでは泣き、泣いては読み、これではならぬと立つて卓子に向つた。やがて心が暗くなつて了つて、ペンを投じて、横になつて日誌を読んだ。かくする事何回かにしてこの一日は暮れた。
 身一つ、心一つ、それすらも遣場のない今の自分!
 "死”といふ問題を余り心で弄びすぎる様な気がするので、強いてその囁きを聞くまいとするが、何時かしらその優しい囁きが耳の後から聞える。敢て自殺の手段に着手しようはせぬが、唯、その死の囁きを聞いてゐる時だけ、何となく心が一番安らかな様な気がする。

 この日も「持薬」を飲んでいる。金田一が来ていろいろ慰めてくれる。

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