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2013年1月16日 (水)

石川啄木伝 東京編 58

 7月23日。
  十一時に目をさまして、枕の上で渋民の秀子さんからの手紙を読んだ。温かい涙が不意に両頬をぬらした。心ゆく許り泣いた。……秀子さんは今月末に渋民を去つて郷里に帰り、九月からは九戸郡にゆくといふ。"私の渋民、渋民の私といふもアト十日だけの事です”と書いてあつた。
  自分が渋民を去つてから、故郷と秀子さんとは同じものになつて頭の中に宿つてゐた。渋民を思出して此人を思出さなかつた事はない。此人を思出して、そして、渋民を懐はなかつた事はない。故郷と此人と自分と、この三つは、或意味に於て一つの縄に繋がつてゐた。  ……
  一日故山の事許り考へた。単純な生活が恋しい。何もかもいらぬ。唯故郷の山が恋しい。死にたい。

 こうした日記が後日読み直され『一握の砂』の歌々の源泉になるのである。

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