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2013年1月20日 (日)

石川啄木伝 東京編 60

 九十三度(33.9度C-引用者)の炎天。灰色になつた白地の単衣が垢にしめつて、昆布でも纏うてゐる様な心地だ。英和辞書――自分の最後の財産を売つて、電車賃と煙草代を拵へた。
  江戸川の終点まで電車にのつた。小日向台の樹が、窓から見えた。六年前を思浮べて、胸が痛んだ。

 「江戸川の終点」とは江戸川橋であろう。「電車」は東京鉄道会社の路面電車である。江戸川橋に近づくと右手に大館みつ家のある小日向台が見えてきたのであろう。1902年(明36)真冬1月に着の身着のままで大館家を追い出されたのだった。ホームレス生活、自殺衝動、病気、敗残の帰郷。
 思い浮かべて、さぞ「胸が痛んだ」ことであろう。しかし天才主義を呼号して傲然と借金生活に飛び込んだ2度目の上京後の生活ぶりとその破綻はわれわれのすでに見てきたところ。真冬と真夏の違いこそあれ、ついに下宿追い出しという同一結果にいたったのである。働けば良いのにと、誰もが思うだろう。啄木にその気はない。

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