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2013年1月24日 (木)

石川啄木伝 東京編 62

 北山伏町三三に北原君の宿を初めて訪ねた。そこで気がついたが、頭が鈍つて、耳が――左の耳が、蓋をされた様で、ガンガン鳴つてゐた。
 近代詩上における白秋啄木時代(山本健吉)の若き両雄がこの時はじめて二人きりになって会談したのだ。話題は「追放令一件」。それから「小栗云々の事では、”それは考へ物でせう”と言つてゐた。成程考物だとも思つた」。さすがの啄木も借金の申し込みまではできなかったらしい。
 北原は今詩集(邪宗門)の編集中であった。寿司などをごちそうになった。「途中まで送つて、神楽坂に出るみちを教えてくれた。」それから羨ましそうに記す。「北原君は十一円の家賃の家に住つて、老婆を一人雇つてゐる。」
神楽坂を下って飯田橋で電車に乗った。六時を過ぎていた。
  電車で春日町まで来て、広い坂をテクテク上ると、電車が一台、勢ひよく坂を下つて来た。ハツト自分は其前に跳込みたくなつた。
 しかし啄木は自殺するには余りに自分がかわいい男である。とは言え今回の自殺衝動は劇薬的な「持薬」ではあった。

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