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2013年2月14日 (木)

石川啄木伝 東京編 72

 啄木からの手紙を待つ節子、啄木の才能を信じる節子。しかし花婿のいない結婚式以来の夫啄木との生活を思い、その後会心の小説は一編も書けない夫を思い、上京後手紙もろくすっぽよこさない夫を思うとき、節子の心に疑惑が生じるのはやむを得ない事であった。
 「ゲザのたぐひではないかと思ふと何とも云はれません」と言う。ゲザは森林太郎『美奈和集(水沫集)』中の一編「埋木」の主人公の名前である。少女時代節子は啄木の勧めで『美奈和集』一冊または「埋木」一編を読んだのである。
 ゲザ・フアン・ザイレンは9歳頃にバイオリンを習うや驚くべき才能を示した。短時日のうちに美少年のバイオリニストとして喝采を博するようになった。ただ思慮に浮ついた面ががあり、仕事においては熱中と倦怠が交互し、持続して努力する性向に欠けていた。
 高名のピアニスト・ステルニイに見いだされ、バイオリニストとしてますます喝采を博したが、そのうち作曲もはじめた。未完成品だがかなりの傑作「悪魔」を作った。美しい婚約者もできた。しかしステルニイの奸計にかかって婚約者を奪われ、しかも彼女は自殺に追い込まれる。ゲザは酒に走りアル中になった。その上「悪魔」の譜面もステルニイにそっくり剽窃されてしまう。落魄したゲザは再起を期してパリに出るが、時すでに遅く、バイオリニストの技術も作曲の能力もすでに失われていた。そして廃人になって年老いて行く。
 節子は啄木を信じているが、時として啄木の中にゲザが見えてしまうのだ。

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