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2013年2月18日 (月)

石川啄木伝 東京編 74

 8月29日。
 昨日の新聞に広告された、読売社の三面記者五名募集へ、心ならずも履歴書をかいて、釧路新聞へ書いたのと共に送つた。希望俸給四十五円か五十円と書いた。俺にこんな巨額な金をくれる奴はない。それは確だ。不本意で応ずるのだから、態とこんな詰らぬ事に不平を洩したのさ。
 こんな男を雇うはずがない。
 この日新詩社で徹夜百首会。与謝野夫妻、茅野蕭々夫妻、吉井勇、平野万里、北原白秋ら13人で始まった。
 森鴎外の観潮楼歌会では次の歌会のための題(たとえば、斯く・さぞ・瓶・海、など)を出しておく。兼題である。新詩社の場合、題はその場で出されたらしい。この日であると、月・充つ・耳・溜・など(新詩社ではこうした題を「結び字」と言った)。これを一首の中に詠み込んで歌を作り(この夜は一人百首)、互いに発表しあうのである。啄木は一番早く30日午前6時に作り終わった。
 啄木の作った歌から引こう。太字が結び字。
  雨後のほどよくぬれし屋根瓦ところどころに輝くもよし
  岩手山秋はふもとの三方の野につる虫を何ときくらむ
  秋のこゑまづいち早くに入るかかる性こそかなしむべかり
  水たまりくれゆく空と紅の紐と浮べぬ秋雨の後

 結び字を離れたらしい歌にもいいのがある。
  いつしかに泣くといふこと忘れたる我泣かしむる人のあらじか
  汪然としてあゝ酒の悲みぞ我に来れる立ちて舞ひなむ
  秋の空廓寥として影もなし覚めたる人の心にも似て

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