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2013年3月 2日 (土)

石川啄木伝 東京編 80

 9月8日金田一の部屋を出て、自分の部屋にいよいよ移る。
 九番の室に移る。珍な間取の三畳半、称して三階の穴といふ。眼下一望の甍の谷を隔てて、杳かに小石川の高台に相対してゐる。左手に砲兵工廠の大煙突が三本、断間なく吐く黒煙が怎やら勇ましい。晴れた日には富士が真向に見えると女中が語つた。西に向いてるのだ。
 「珍な間取」と言い「穴」と言う。金田一のおかげで住みかを確保できて感謝するよりも、金田一の部屋に比べてこの部屋が不満なのだろう。幼いときからいつでも自分に最上のものが与えられた啄木はまだ、特定の時と場所にある自分の位置というものがわかっていない。まだ本能レベルで自分はエリートつまり「天才」なのだ。
 とはいえこの部屋は間もなく創刊される文芸雑誌「スバル」の編集室となる。またこの部屋の窓からの景色は歌になり、数十年後の大気汚染の予言を引き出しもする。まことに啄木端倪すべからず。

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