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2013年4月20日 (土)

石川啄木伝 東京編 104

 …………歩いて帰らねばならぬかと思つた時、予は異様な沈着した悲みと決心を覚えて、足が軽くなつた。然し田原町へ来て電車を見ると、歩くのが急につまらなくなつて、辻俥に乗つて帰つて、宿に払はした。
 人力車夫は人を乗せて赤心館まで歩くのだ。若い啄木は健脚なのだから自分の足で歩いて帰ればいいのである。そうしなかったどころか、俥賃を「宿に払はした」!
 「白鳥君の”何処へ”」ではないが、啄木はどこへ向かっているのか。
 今日は「鳥影」連載の初日である。よりによってその日に買春。実は「鳥影」(二)の三が書けないのだ。
 11月2日。
 終日ペンを執つて、(二)の三を書改めた。そして遂に満足することが出来なかつた。全編の順序を詳しく立てて見ようとした。遂に纏まらなかつた。夜の九時頃には、後脳が痛んで来て、頸窩の筋が張つた。
   ……
 この日の苦悶は、予をして何故に小説を書くかを疑はしめた!

 5ヶ月後にはじまる「ローマ字日記」の苦悶そのものである。字が漢字・仮名かローマ字かの違いがあるだけだ。もう一つ違いがあるとすれば、家族の上京が差し迫っていない(節子が就職してくれた)ことである。しかしこの一時逃れの付けは、啄木の一生でもっともつらい払いを要求することになるであろう。この日は島崎藤村の「春」を読んでいる。

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