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2013年4月 8日 (月)

石川啄木伝 東京編 98

 この小説の構想には「ツルゲーネフの『その前夜』などからの示唆が多分にあったことと思われる」という窪川鶴次郎の指摘がある 。実際は「示唆が多分にあった」などというものではなく、啄木は『その前夜』の骨組みをそっくり借りようとしたのである。
 『その前夜』ではインサーロフのニコライ邸訪問によってかれとエレーナの恋愛が、つまり小説の本筋が始まるわけであるが、この小説でも主人公吉野満太郎の小川家来訪によって、かれと智恵子の恋愛がつまり本筋が始まるのである。
 したがって13日の日記で題を「鳥影」と決定したことの意味は大きい。(五)の二によると、障子に鳥の影が映ると、来客があるとの俗信が、渋民辺にはあったらしい。したがってこの決定は小説の主要人物の来訪・登場が暗示された題であろうとの推測が成り立つ。
 つまり日記に、題を「”鳥影”とすることにした」とあるのは、この小説の骨組みを『その前夜』に求めたことの表現であったのだ。
 そうなると「全体の趣向もずつと変へ、複雑にし、深くして、そして稿を改めることにした」ことも、『その前夜』の模倣が念頭にあってのことであろう。
 9日に突然バルカン半島の動向に反応した啄木であったが、13日の『その前夜』模倣の着想との間に意識のつながりがあったのかもしれない。インサーロフとエレーナは風雲急を告げるバルカン半島のブルガリアに行こうとしていたのであり、病気のインサーロフはベニスで客死するがエレ-ナは夫の意志を継いでブルガリアに向かうのであるから。したがってバルカン半島→『その前夜』という連想はあり得るのである。

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