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2013年6月12日 (水)

石川啄木伝 東京編 129

 12月7日。
 日本橋から今日来てくれとの電話。予は先頃から電話をかけることをおぼえた。どうも変なものだ。
 夕方一寸平野君。
 飯がすむと日本橋へ行つた。(お待兼で厶います。)と女中が階子口で言つた。奴は八畳間に唯一人、(逸身氏は大坂に行つて了つたのだ。)寂し相に火鉢の前に坐つてゐた。イキな染分の荒い縞お召の衣服。
 共に銀坐に散歩した。奴は造花を買つた。
 それからまた宿に帰つて、スシを喰ひ乍ら悲しき身の上の相談――逸身の妾になれ、と勧めた。
 十一時、言ひがたき哀愁を抱いて一人電車で帰つた。

 逸身豊之輔の経営する大阪炭山鉱業所は逸身家の同族会社大阪鉱業株式会社の一部であるから、豊之輔は大阪の本社に用があって上京し、小奴を置いて大阪に向かったのであろう。
 「夕方」から「十一時」まで、たっぷり時間がある。昨日同様の時間があったことはたしかである。「言ひがたき哀愁を抱いて」のくだりにはそれを含む色々のことが暗示されている。
 12月8日。
 吉井君に起された。昨夜”獣の女”と芝浦の宿屋に泊つて飲んだといふ。(君に一昨日あゝやられて飲む気になつたんだよ!)
 吉井には6日の情事は見え見えである。啄木はここでも「!」。
12月10日。
  十時かへる。
  坪仁ちやん、不在中に来て空しく帰つたとのこと。

 とうとう親しみが高じて「仁ちやん」になった。小奴とはいろいろ相性がいいと見えて、貞子の時の様なうっとうしさはまるでないようだ。

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