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2013年6月18日 (火)

石川啄木伝 東京編 132

 

十二月になつて愈々いそがしくなると、何しろ三人のうちで雑誌編輯上の事務をやれるのは僕一人だ。其処で編輯の大体は平野の独擅でやつてゐたが、平野と吉井は毎日僕の三畳半に来た。つまりこの室が編輯局だつた。当時僕は、毎朝十時頃平野に起され、話をしながら毎日の小説を十二時頃までに書いて送り、のこる半日半夜を全くそのために費した。三人中最も熱心だつたのは無論平野だ。何故といへば彼は「自分の雑誌」といふ気でゐたのだ。その熱心は然し、余り度を過してるので、「雑誌一冊に恁麼に無中(ママ)にならなくてもよささうなものだ」と思はれる位、却つて滑稽に見えた。
 吉井は無論、熱心な平野も、紙が一聯何百枚あつて、一枚から何頁とれるかも、又活字の号数も、薩張
(さっぱり)知らなかつた。推して知るべし。
 或時こんな会話があつた。
  平野『口語詩なんて詰らない。僕の方の雑誌では毎号攻撃してやらうぢやないか。』
  吉井『ああ、僕等の方の雑誌で』
  石川『僕は然し、口語詩はいゝと思ふ――理論上はいゝと思ふ。最も、今迄に出た作物の価値は別問題だが…………』
  平野『それアさうさ、理論上はさうだが、アンナ作物を出して威張つてるから癪にさはるんだ。』(と不快な顔をした。平野はすぐに不快な顔をする男だ)
  石川『アハハ……やるサ、大いに。』平野の「僕の方」と吉井の「僕等の方」とを比較し、更に僕の第三者的態度を見れば、当時の三人の関係が分る。そして平野は最も熱心で、僕は熱心でなくてゐて一番役に立ち、吉井はチツとも役に立たなかつた。(吉井君は、やる気がなかつたといふよりは、やれない人なのだ。)

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