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2013年6月20日 (木)

石川啄木伝 東京編 133

 

ところへ以て来て、吉井は、平野嫌ひな蒲原有明君から油をかけられて、僕へ不平を打明けた。吉井の言分では、『明星がスバルに変り、消息のアトの与謝野生が平野生に変るだけだ。こんな雑誌なら僕はイヤだ。これでは明星と何の変化がない。』といふ意味であつた。つまり平野の専横を憤慨したのだ。実際また吉井は北原太田に対して恥かしくなつたのだ。
 是より先き、僕は毎日一緒にゐる間に、平野を研究し尽した。彼は決して其表面に見えるやうな大人風な男ではなかつた。彼は、ウソは言はぬ代り決してホントの事も言はぬ男だ。そして陋劣な、女々しい、感情的な、偽善家だ。そして其文学観が僕と全然一致しなかつた。従つて、雑誌に対する考へもまるで違つてゐた、僕から見れば、平野はスバルを自分の雑誌にしようとしてゐることが明白で、そして其性格は到底僕と合はず、其主張主義共に何の根柢がなく、古いコンベンシヨンに捉はれてゐた。――即ち僕は、僕一人でスバルと絶縁する機会あることを信じてゐた。で吉井が不平を言ひ出すと、僕は一方にそれを煽り立てると共に、一方にそれを牽制してゐた。これは頗る狡猾な態度で、その事は平野初め何人にも知らせずにゐた。そしてこれによつて、予は全く、嘗て敵であつた吉井を自分の思ふまゝにあやつつてゐた。そして一方に於て、予は心中に於て平野を蹴つた。

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