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2013年8月14日 (水)

石川啄木伝 東京編 149

 日記は続く。
 そして、予は、今夜初めて真の作家の苦痛――真実を告白することの苦痛を知つた。その苦痛は意外に、然り意外につよかつた。終日客のあつた金田一君は十一時頃に一寸来た。予はその書かむと思ふことを語つた。予は彼の顔に言ひがたき不快と不安を見た。
……あゝ情誼の束縛! 遂に予は惨酷な決心と深い悲痛を抱いて、暁の三時半までにやつと二枚半許りかいた。
 予は勝たねばならぬ。

 なんという甘ったれ。直視できぬことからはそれがなんであれ逃げまくる。その付けは父母と妻から始まってもっとも身近な友人たちに持って行く。
 「暁の三時半までにやつと」書いたという「束縛」二枚半を覗いてみよう。
 金田一がモデルの尾形はたとえばこんな風に書かれる。 
  ……友人の十が八までは髯を立てたのを見て、近頃売薬の毛生薬を密乎(こつそり)買つて来て、朝晩怠らずに塗(つ)けてゐる。貼箋は綺麗に剥いで了つてあるから、薄い褐色の液を湛へた其瓶が机の上にあつても、それと気の付くものは誰もない。
 本気でこんなことを書いたとしても、活字にする気はなかったであろうが、恩知らずも極まっている。こんなことも書く。文中の「工藤」は啄木ご本人。
 尾形と工藤の友情――と言ふよりは寧ろ、尾形が工藤に対して有(も)つてゐる厚い好意――は、知つてる人々の間に深い感動を以て伝へられてゐた。
 いい気なものだ。去年の9月6日の友情も金田一の一方的な「厚い好意」の結果だと言いたいらしい。これでは忘恩の徒だ

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