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2013年10月14日 (月)

石川啄木伝 東京編 179

 

御書状拝見とにかくパンの木御発見被遊候由珍重々々、先月の「足跡」処々の評に不拘好き出来と存候、先日上田敏にも相話候事に候。新聞のシゴトの許[す]限り著作に御努力所祈に御座候
 啄木日記からの引用であるが、正確に筆写された鷗外書簡と見なしうる。ようやく就職した啄木への鷗外の目は温かい。注目すべきは「足跡」の評価である。「処々の評に不拘」は「早稲田文学」3月号「小説月評」の中村星湖の酷評が主に念頭にあろう。このようなものであった。
 これは長篇の書き出しださうだから、作者に対する礼として何も言はない方がよからうが、読んだから思ひ付いた所だけを言つて置く。誇大妄想狂式の主人公を書くのは好い、作者まで一緒になつてはたまらない。
 「誇大妄想狂式の主人公」は間違っている。時代に先んじたこういう小学校教師が実在し、その教師とかれを中心に展開する岩手県の一寒村の教育現場をかなり鮮やかに形象化したのである。中村星湖にこれは理解できなかった。しかし形象化にあたってナルシシズムにおぼれてしまった点を、「作者まで一緒になつ」たと批判した。これは当たっている。
 鷗外は自信をなくしている啄木を励ます意味もあろうが、星湖の批判した部分は措き、この作品の価値ある部分を見て「好き出来と存候」と評価したのであろう。
 啄木は励ましと評価に感謝してこれを筆写したのであろう。

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