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2013年10月24日 (木)

石川啄木伝 東京編 184

 「足跡」以来作家としては無為のうちに過ごして来たが、吉井にたのまれた「スバル」4月号のための原稿を3月23日に考えた。締め切りは25日だ。
 24日「夜スバルの為に『島田君の書簡』をかく、亢奮して亢奮して」「三時までに漸く十一枚」。そして翌日「到々間にあはなかつたので朝に吉井に詫のハガキ」。
 「島田君の書簡」は二百字詰め11枚の断片だが、東朝入社が啄木に与えた刺激の新鮮さを示している。「島田君」は「同県出のU――新聞の編輯長の世話で其新聞の校正課に入つた」男で、「石川君」という友人に宛てた書簡の形式で展開する。島田君は入社の後の感想をつぎのように述べる。
 それよりもそれよりも急がしいのは頭脳(あたま)の中の生活だ。君、何と言つたら可(よ)かろらう! 見るもの、聞くもの、今までは我々と何の縁もゆかりも無かつた様な事件や問題までが、何時か浅草の活動写真で見た、手品師の手に随つて何処からともなく降つて来る赤い箱や白い箱の様に、僕の頭脳の中に飛び込んで来る。今迄僕の住んでゐた世界は何時の間にか消え失せて、遽かに広い、広い、一望坦として際涯なき戦場に自分の身を見出した様だ。社会のあらゆる事、物、それが四方八方から僕に挑戦してる様に見える。唯もう凝然(ぢつ)として居られない。何といふ事もなく一日電車に乗つて市中を飛び廻りたい様な気持がする。

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