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2013年10月28日 (月)

石川啄木伝 東京編 186

 あゝ、その時になつて其煙突を見上げる人々の心地は甚麼(どんな)であらう! そして其都会の中(うち)、其煙の風下に当る区域は、劇しい煙毒の為に害(そこな)はれ、如何なる健康者でも其区域に住んで半年経てば、顔に自(おのづ)と血の気が失せて妙に青黒くなり、眼が凹んでドンヨリする。男も女も三十以上の齢は保てなくなる。随つて家賃は安い。幾十万の貧乏人はそれを知り乍ら其区域に住み、秋の木の葉の落つる様に片ツ端から死んで行く。人類の未だ曾(かつ)て想像した事のない大悪魔の様な黒煙が、半天を黒うして其都会の上に狂つてゐる。
 ……………此処まで考へて来て、僕は名状し難い快感に襲はれて思はず身慄ひした。そして再び砲兵工廠を望んだ。彼の煙突と彼の煙とは、其時、児戯にも等しい位小さく見えた。

 この壮大な幻影は日本の高度経済成長期につくられた15もの石油化学コンビナート(1957年〈昭32〉~60年代末〉)によって現実となる。それどころか1950年代のイギリス・ロンドンで、1970年代カナダ・オンタリオ州で、1980~90年代のチェコスロバキア(当時)のモストで、90年~2000年代の中国で……(枚挙にいとまがない)、啄木の幻影は現実となった。

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