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2014年9月16日 (火)

石川啄木伝 東京編 270

  

 海の風つめたき中にしつかりと握り合ひける手はもつめたし
 親友の妻と夫の親友が手を「しっかりと握り合い」愛を確かめ合う。
  つぎは郁雨が節子と別れ東京から函館に帰ってからの心を詠んだ歌14首のうちから、9首。
 あはれこひし津軽の海のかなたにてわかれ来し人のただに恋しも
 比羅夫丸その名おもへば涙いづ君と乗り行きし船なりしゆゑ

 事情を超えて感動的な相聞である。特に二首目の哀切。
 つぎの三首の欄外には「S」と記してあるという 。
 あなこひし文も書かずてすぐせどもわがこのこころ君をはなれず
 この日頃あひ見ぬひまに老いにたる君かとおもひわれも老いゆく
 目のまへに君の顔見ゆうなだれし君の顔見ゆ声たてて泣く 

 男女の「あひ見」る、は古典の用法では「男女の関係になる」ことを意味する。郁雨の用法については未詳。
 かの時に死なむと言はば君何と答えしけむと泣きつつおもふ
 今一度あひ見ぬかぎりいかでいかで恋死せむやとおもひつめにき

 ここの「あひ見」る、は古典的用法ととらねば、意味をなさないであろう。
  じつとして雨のふる日をおもひゐぬ君と相見し雨のふる日を
   おもしろき海の話を船にゐて共に聞きける君は帰らず

 2首目は一番最初に掲げた「年わかき水夫は」の歌と応じている。
 この2つの歌群にはもう少し節子への相聞があるけれど、これまでにしよう。どの歌も佳い。郁雨の思いが真率だからであろう。ふたりの関係が男と女の関係であることに疑いの余地はないと思われる。

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