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2014年12月14日 (日)

石川啄木伝 東京編 313

  

実は本月二日の日、私の留守に母には子供をつれて近所の天神様へ行つてくると言つて出たまゝ盛岡に帰つて了ひ候。日暮れて社より帰り、泣き沈む六十三の老母を前にして妻の書置(かきおき)読み候ふ心地は、生涯忘れがたく候。昼は物食はで飢を覚えず、夜は寝られぬ苦しさに飲みならはぬ酒飲み候。妻に捨てられたる夫の苦しみの斯く許りならんとは思ひ及ばぬ事に候ひき。かの二三回の通信(「百回通信」の三と四-引用者)は全く血を吐くより苦しき心にて書き候。私よりは、あらゆる自尊心を傷くる言葉を以て再び帰り来らむことを頼みやり候。若し帰らぬと言つたら私は盛岡に行つて殺さんとまで思ひ候ひき。
 家出の直接的原因は姑カツとの異常な確執にあった。夫への愛があればがまんもできたであろう。しかし夫への愛の喪失と引き替えに得たのが郁雨への愛であり、そのことがまたカツとの確執を引き起こしていた 。盛岡の妹ふきは10月の下旬宮崎家の郁雨に嫁ぐことになっていた。家出は複雑な要因を孕んでいた。

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