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2014年12月16日 (火)

石川啄木伝 東京編 314

 金田一京助は10月2日のことをこう記している 。
   この時ばかりは、石川君も、地べたへ取つて投げられたやうに吃驚し、取るものも取りあへず、蓋平館の私の許へ飛んで来た。
  『かかあに逃げられあんした』と頭を掻いて、坐つたなり、惘然として、すぐには、あとの口を利かなかつたので、私も、本当やら冗談やら、『え?』と云つたまゝ、あいた口が塞らなかつた。やがて君が、重い口調で、しみじみと始めて母堂との不和のいきさつを詳しく話し、『あれ無しには、私は迚も生きられない』と自白し、……
節子にもどってくれるよう手紙を出して欲しいと懇願した。
 金田一は引き受け、さっそく節子に宛てて「長い長い手紙を、仕舞には……自分でぼろぼろ涙を落しながら書いて出した。」
 啄木は自分では書けないから金田一に書いて欲しいと言ったのに、堪えきれず自分でも節子宛の手紙を書いて出した。そして10月7日次の手紙を金田一にしたためた。
  まだ返事は来ませんでせうか。私は私から手紙を出したことを、若しやあなたに全幅の信任を捧げることが出来なかつた為と思はれはしないかと心配してゐます。帰るでせうか、帰らぬでせうか。
 私には新しき無言の日が初まりました。私はこの、一寸のひまもなく冷たい壁に向つてゐるやうな心持に堪へられません。然しこの心持をそらすやうないかなる方法もとりたくありません。誰とも話はしたくもないが、あなたには逢ひたい。

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