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2014年12月18日 (木)

石川啄木伝 東京編 315

 妻の家出は啄木23年の人生で最大のショックであった。かれを苦悩の深淵に沈めた。
 彼女の心を掴んでいる点で絶対的な自信をもってきたのである。まさか妻が自分を「ゲザのたぐい」かも知れぬと疑っていようとは思ってもみなかった。
 啄木は上京後の節子に腑に落ちぬものを感じていたのは確かである。いや彼女の言動に自分への「批判」を感じたからこそ、あそこまで自己変革したのだ。そしてこの変革をつづけて行けばきっと彼女の愛をふたたび取り返せると思っていたに違いない。
 その彼女が自分を捨ててしまうとは! 彼女に自分を捨て得る心があったとは! 永遠に戻ってこない恐れもありうるとは! 
 啄木は根底から自分と節子のこれまでを見つめ直したことであろう。一点のごまかしも無く。節子をここまで追い込んだ自分の問題点を隅々まで点検したであろう。余すところ無く。
 7月20日頃「汗に濡れつゝ(九)」に「人生の真面目を……面相接して直視するといふ事は容易に出来る事ではない」と記した時はまだまだ甘かった。
 「この心持をそらすやうないかなる方法もとりたくありません」という啄木。この心を持ったとき「人生の真面目」を「直視する」啄木が誕生した。啄木の「回心」(井上ひさし) である。

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